第31回大瀬カレンダーフォトコンテスト
31th.Ose Calendar Photo Contest
審査員からの総評
第31回を迎えた大瀬カレンダーフォトコンテストの審査を終えて総評をお話ししたいと思います。
入選された作品は各々選評をお話ししておりますが、選に入ってない作品の中にも実は多くの秀作がありました。それらの作品は生物本来の美しさを撮ったもの、大瀬の環境や、雰囲気おさめたもの、生態行動の瞬間を切り取ったものなど、それぞれのよさを狙った作品が多く見受けられました。
そのような中で、惜しかった作品はプリント処理が悪く、色がかぶっていたり、おそらく撮影した原版はもう少し広かっただろうと思うのにトリミングで詰めすぎて息苦しさを感じさせてしまったり、構図の縦横で雰囲気が変わってしまったなど、残念ながらあと少しの差で選を逃した作品もありました。とはいえ、作品全体を通して写真の基本であるピントや、作品それぞれの狙いもはっきりしており、「さすが大瀬のフォトコンテスト」いう、レベルの高さを感じました。言い方を変えると、ほとんどの作品が当落線上にあったように感じます。
今回は写真を見ただけでベテランと思われる作品から、逆に新たな雰囲気の作品も多くみられました。大瀬フォトコンという大舞台ですが日本を代表するようなベテランだけが強いわけではなく、初応募の方の作品でも、自分の狙いをどれだけ表現できるか、何を言いたいのか。当落線上に上った時に、狙いがはっきりしていて、何をどれだけ簡潔に表現しているか、そして減点要素をどこまで少なくできるか、それが分かれ目となったように思います。
今回、選にもれた方も次回もぜひ大瀬フォトコンテストに応募してください。これからも素晴らしい作品の数々を見させていただけるのをしみにしています。
第31回大瀬カレンダーフォトコンテスト審査風景
審査員紹介
第31回大瀬カレンダーフォトコンテスト受賞作品
31th.Ose Calendar Photo Contest Award-winning work
グランプリ「アピール」田中 良多
受賞者コメント
大瀬崎の湾内でマメダワラが生い茂る季節。ギンポたちの熱烈な恋模様が繰り広げられていました。普段は隠れることが大好きなギンポも、このときばかりは全身で魅せてアピール!全力で『こっちを見て!』と言わんばかりの様子。パイプの中のギンポも魅力的なアピールを見つめ、熟考しているようです。写真を通じてギンポ達の熱い想いを感じて頂けたら嬉しいです。
選評
ニジギンポが求愛されてこれから産卵するのでしょうか。卵を産みに来たメスが2匹、巣穴を守っているオスを挟んで配置されています。3匹全てにピントが合っている所、横一線ではなくやや斜めに配置した構図もいいですね。大瀬ではどこにでもいる生物ですが、普段着の一瞬を丁寧に、惰性なく撮影しているのを感じます。生態的な意味合いも含めて秀逸な一枚でした。
準グランプリ「カワハギの昼餐会」富原 望
受賞者コメント
カワハギはご馳走を見つけたかのようにクラゲの周りを回り踊りながらクラゲをついばんでいました。クラゲはボロボロになり最後を悟りつつ力無く泳いでいました。「カワハギってクラゲも食べるんだ」と驚きましたが、撮影のために触れるくらいまで接近してもカワハギに逃げる気配がないので食への執着にさらに驚きました。ファインダー越しに一緒に潜っていたダイバーが眺めていたのが見えたので構図を意識して撮影しました。
選評
気持ちの良い、濃紺の水。その中でおこる生物のドラマ。潮が良い時に来遊するクラゲとそれを食べに集まるカワハギですね、大瀬では沖潮が入ってくると時折観察される光景です。食べるのに懸命なカワハギと、それを見つめるダイバーの姿が、大きさや位置的にも良く、非常に効果的に効いていて静寂感と生命感の両方が両立して表現できていると思います。
入賞「はい、虫歯なし」野中 聡
受賞者コメント
クリーニングはよく見られる生態シーンですが、気持ちよさそうにしている魚たちの姿についつい見入ってしまいます。この時もホンソメワケベラが大きなコロダイの体を丁寧にクリーニングしていました。コロダイが口を開けると、ホンソメワケベラがスルッと入り込み、しばらくするとひょっこり顔を出したのです。外の様子を伺う感じで止まった瞬間、なんとも言えない微笑ましさを感じ、思わずシャッターを切りました。
選評
驚きの一瞬です。ホンソメワケベラがクリーニングする姿はどのフォトコンでも出てくる写真です。しかし、口から掃除を終えて、上半身が口から出てくる瞬間とは!一瞬のチャンスで、画面を大胆に切り取る冷静な判断に脱帽です。ここまで大胆に切り取る難しさ、それを見事に成し遂げた写真に、高い技量と技術を感じました。生態的にも素晴らしい写真です。
入賞「神秘の森~藻音(モネ)~」吉田 佳世
受賞者コメント
初めて訪れた大瀬崎の海。先端の華やかなハナダイの群れを撮影した後の浅瀬でのひととき。ホンダワラの間を色とりどりのソラスズメダイが気持ち良さそうに泳いでいました。私自身今までに見たことのない海藻の森に感動しつつ、爽やかな初夏の海を堪能しリラックスして撮影を楽しみました。奥行を出すことでバックの水の層が印象派のモネの作品を思わせるようなタッチになりお気に入りの1枚です。
選評
先端のソラスズメダイの大群は隠れた大瀬の名物といえるでしょう。この魚は撮影が難しく、下手にストロボを強く使うと白く、光が不足すると黒っぽくなってしまいますが、この写真は宝石をちりばめたように撮影しています。周りの海藻の季節感も含め、先端を潜る際に私たちが見る光景がよく表現されていると思います。被写体は“水辺からある”を示してくれた写真です。
入賞「時を泳ぐ」安田 真人
受賞者コメント
細いヒレを左右に振りながら泳ぎ続ける姿を表現しようとスローシャッターに挑戦しました。浮遊系でスローシャッターは初めてでしたが、ハナダイ写真家に教えてもらったスローシャッターの知識を思い出しつつ、沖縄のガイドさんのコショウダイの写真を思い浮かべて、何度もシャッターを切りました。そして、とんでもない被写体を見つけてくれたのは大瀬の現地ガイドさん。皆様のおかげで撮影できた一枚です!
選評
私も長く取り組んでいる浮遊系の写真ですね。浮遊系写真は一期一会の貴重な生物との出会いを逃さず、一瞬の美をシャープに切り取るのが醍醐味ですが、背びれと胸鰭の残像を利かせて妖艶に表現したもので、魚の形もいいですし浮遊系撮影の確かな技術の中に新たな表現を感じる作品です。
入賞「時間よ止まれ」檀上 博史
受賞者コメント
アカオビハナダイの産卵の瞬間です。派手な赤い帯が体側にある大きいほうがオス。全体が薄ピンクで小さいほうがメスです。アカオビハナダイのカップルがこっちを見ながらなにか話をしてるみたいです。君は魔法を信じるかい?人間ってやつは時間を止めることができるんだってさ、え?信じられないって?でも本当なんだじゃあ、今から見せてあげるよいいかい、僕に続けてこう言ってごらん、はい、チーズ!
選評
アカオビハナダイの産卵をワイド気味に撮影している作品ですね。こういったシーンはマクロレンズなどで2匹だけを表現しがちですがこの作品はその環境を入れ込み、中央に産卵行動をしている動きのある2尾を入れています。命をつなぐドラマがタイトル通り、時間が止まったように表現する。このフレーミング、静と動の表現、ベテランが持つ技量と感性が感じられる作品です。
●入選「ユウレイが出たぞ~!」古菅 正道
選評
ユウレイイカは大瀬崎で慣れに観察される珍しい深海性のイカ。なかなか会えないユウレイイカをその時の環境(おそらくべた凪、水面に映るユウレイイカ、空)を余すところなく捉えていると思います、その一瞬の判断力が素晴らしい。
●入選「森林浴」藤原 歩
選評
ウスバハギがホンソメワケベラにクリーニングされています。普段の大瀬崎で見る何気ない光景ですが、春の静かな海底、そして大瀬の豊かな生物層を的確にとらえています。余談ですがウスバハギ背中の棘がちゃんと写っていて珍しいです。
●入選「みじんさまぁ~」永井 慶介
選評
タコノマクラの空き殻、そこに開いた小さな穴からミジンベニハゼ顔を出しているところがかわいく、朝起きた時の光景をも感じさせてくれます。ミジンベニハゼの生活感まで感じられる作品です。
●入選「命の華」大島 千尋
選評
スズメダイ?ガラスハゼ類?何の卵か判りませんが、画面の切り取り方とライティングが特にいいです。それをよりよくしているのがバックライトで卵の透明感を的確に表現していることです。
●入選「仲良し」重城 祐
選評
イボイソバナガニの無表情さと、ちゃっかりその背中に乗っかっているガラスハゼの取り合わせが面白く、それが適切なライティングとフレーミングでいい感じでおさまっています。
●入選「鏡に映る私」戸塚 絹代
選評
今年は大瀬を賑わせた、普段は見ることができない深い場所に住む生物。鏡に映っているところが顔だけとは、よくぞこの角度をおさえましたね。表情豊かないい瞬間をとらえています。
●入選「花に誘われ、散歩する」玉木 潤
選評
ヤドカリと背景であるハネウミヒドラ、赤と白の対比が、簡潔で良いです。まるでお花見しているような光景で楽しくなるような写真ですが、情緒もでていてそれがより良い効果をうんでいます。
●入選「ホカケ戦隊GoGo!!」田中 弘文
選評
求愛前のオスがまとまっているのだろうか、ホカケハナダイのオス群れですね。3匹はピントがしっかりあっており、動きもあり、大瀬の新しいアイドルを良く捉えていると思います。
●入選「紅葉の草原」久保田 敦子
選評
一見するとなんということのない写真のように見えますが、適切な被写界深度のためにクマドリカエルアンコウが背景に溶け込まず、さらに浮き上がるように見えます。魚の向きや空きなどの構図も良いです。
●入選「Hold Me Tight」松田 祐一
選評
ホカケハナダイ産卵の瞬間を捉えた写真ですね。確かな技量で一瞬の姿を見事に撮影していると思います。このようなシーンはなかなか真正面からの撮影は難しいですが、それを可能にした深い観察力と高い技術力が感じられます。
●入選「可愛い子なのに鬼瓦」松崎 竜児
選評
画面中心にある顔、その“日の丸構図”の特性を活かした良い例で、眼幕の透明感やコントラストの強さ、被写界深度を浅くしたことでとてもインパクトのある作品だと思います。
●入選「感謝を込めて」市橋 洋子
選評
見ているだけで気持ちよくなるような作品です。赤い生物をより際立たせる為の白基調の背景。この背景のおかげで主要被写体であるウミウシがより一層際立っています。
インスタ部門総評
驚くほどいい写真が多く、プリント部門に応募すればいいのと思うような写真がたくさんありました。いい瞬間・表情・風景があり、気持ちのいい写真からマニアックなものまで、選ぶのに本当に悩む素晴らしい写真が集まりました。今後が楽しみな部門です。(敬称略)
●インスタグラム賞「あっ、どうも」田中 玲那
選評
これぞ「写真」という感じ。光と影を使い、センターに被写体を置き、ミジンベニハゼがやや下気味に配置されています。瓶の奥行き感などプリント部門でもよかった作品。
●インスタグラム賞「花束」吉田 浩二
選評
雰囲気が「インスタ部門」らしい。エビの体はポリプの中に溶け込んでいながら、眼にはピントが合っている。何より色合いがInstagramに合っていて温かみがある作品だと思います。
●インスタグラム賞「トリコロール」横溝 大河
選評
ホワイトバランスが青寄りに傾けている、それが均一な青基調になってクダゴンベの赤色が強調されて、同時にさわやかさを感じさせてくれました。
以下、特別賞3点・インスタ奨励賞10点には選評ありません。(現地スタッフが選んだため)ご了承ください。(敬称略)
◯大瀬楽しかったで賞「秘密戦隊アケボノレンジャー」長嶺 真経
◯大瀬アイドル賞「二重奏」小川 和義
◯こんなの撮れちゃったで賞「危機一髪」上野 義典
◯インスタ奨励賞「鎮座し続けるオオモンカエルアンコウ」垣本 陽一
◯インスタ奨励賞「育む」金本 稜子
◯インスタ奨励賞「極寒の中のぽかぽか光景」山下 奈津子
◯インスタ奨励賞「覗き見されたアカイシガニ」山﨑 龍人
◯インスタ奨励賞「シェアハウス」秋元 星哉
◯インスタ奨励賞「ミス大瀬崎」小林 泰
◯インスタ奨励賞「妖艶」武田 和浩
◯インスタ奨励賞「海の凧」野間口 大陽
◯インスタ奨励賞「夢」林 華
◯インスタ奨励賞「タマゴ大噴火」山本 敏